デザイナーズエッジ Vol.06 イベントレポート | 社内レポート | 採用情報 | ユニオンテック株式会社

「デザイナーズエッジ」第6回開催レポート・第7回開催のお知らせ


4月25日(金)、渋谷・ユニオンテック本社にて、第6回「デザイナーズエッジ」が開催されました。今回のゲストは、G ARCHITECTS STUDIO 代表の田中亮平氏。隈研吾建築都市設計事務所でのキャリアを経て独立し、国内外で50を超えるアワードを受賞する注目の建築家が登壇しました。

「デザイナーズエッジ」は、“最先端(Cutting Edge)をいくデザイナーを目指し、互いに刺激を与え合い成長する”ことを目的とした、空間設計デザイナー向けのコミュニティイベント。今回も学生からプロフェッショナルまで多様な立場の参加者が集い、視点を広げる場となりました。

小さなアイデアが世界へ繋がる。“規模ではなく熱量”のデザイン哲学

田中氏の講演は、自身のキャリアを丁寧に振り返るところから始まりました。名古屋市立大学を卒業後、東京都立大学大学院に進学。就職活動では2度にわたり隈研吾建築都市設計事務所に不合格となるも、三度目の挑戦でようやく入所。「その時に仕事があるかどうか。実力だけではなく“タイミング”がものを言う世界」と語る田中氏の言葉には、建築を志す学生への優しい眼差しと、社会人としての現実的な知見がにじみ出ていました。

入所後は、展覧会会場の構成から美術館・ホテルといった大規模プロジェクトまで幅広く担当。特に印象深いのは、佐世保のオリーブベイホテルや長崎のガーデンテラスホテルといった案件。「ホテルはチェックインから滞在、食事、睡眠、そしてチェックアウトまで、人の体験が長く豊かに続く。そこに惹かれた」と語ります。

その後2013年に独立。事務所時代は5,000〜6,000平米規模の仕事を手がけていましたが、独立直後は一転して小規模なプロジェクトばかりになります。 
最初のプロジェクトは、わずか5,000円の予算で制作した「葉っぱの涼屋」という名のインスタレーション作品でした。

倉庫のトタン壁に磁石で葉っぱを貼り付け、上から塗装して剥がすというシンプルな手法で、葉っぱの跡を残す「マスキング塗装」と呼んでるそう。
このプロジェクトは茨城県の那珂湊という港町で行われていたコンペに応募して通過し、空き倉庫のオーナーに交渉して場所を借りて制作したもの。
 


地元の学生さんたちにも協力してもらいながら、ひたすら葉っぱを貼って塗装して剥がすという作業を繰り返し行ったというこの「葉っぱの涼屋」のプロジェクトは、後にオランダの『Frame』というデザイン雑誌のアワードにノミネートされました。
「実は英語も得意じゃなく、プレゼンは必死だった(笑)」と振り返りながらも、「建築というのは面白い世界で、大きなプロジェクトでも小さなプロジェクトでも、どのように建築を組み立てるか、建築で何ができるかということを、新しいやり方で実現してみせる“戦い”である。」という建築家の故小嶋一浩氏の言葉を引用し、「どんな小さなアイデアでも、世界とつながるきっかけになるんだということを自分自身の体験として実感した。」と語る姿に、会場の空気が引き締まりました。

実践知としての“マスキング塗装”と、見えないものを建築する力

葉っぱのプロジェクト以降、田中氏は「マスキング塗装」という手法を住宅リノベーションでも展開。



埼玉のマンションでは、コンクリート壁にグラフィカルな模様を浮かび上がらせ、空間に幻影のような印象を与えました。「重たい素材でも、表現次第で“透ける”ような軽さが生まれる。建築は、触れないものすら形にできる」と話す田中氏の言葉には、素材への深い洞察と、空間体験への徹底した意識が込められていました。

続いて紹介されたのは、浅草のリノベーションプロジェクト「茶室ニゴウ」。ここでは、街路からちらりと見えるスカイツリーの“隙間景”を2階の室内に取り込むことで、観光の流れと建築が交差する設計がなされていました。
「その場にしかない景観を、空間の中に再構成する」――そこには“場所の物語”を建築で語る力がありました。

素材と工夫で空間に“らしさ”を宿すリノベーション

民泊施設として再生された大洗のプロジェクトでは、サビた倉庫が並ぶ街並みに馴染むよう、トタン板と鉄粉塗装を採用。施工費を抑えながら、空き店舗の“古さ”を活かしたデザインが印象的でした。

「鉄粉に洗濯のりを混ぜた塗料を使ったんですが、昼休みに戻ったらもうサビてて(笑)。スタッフが編み出した魔法みたいな工法でした」

地域の景観に溶け込むデザインと、コストを抑える創意工夫が見事にハマった事例です。

また、倉敷の焼き鳥屋リノベーションでは「焼いた銅」や「焼き鳥のタレの色」をテーマにした、ちょっと変わった実験を披露。家庭用トースターで焼いた銅板を壁材に使い、部分的に焼き加減を調整することで、味のある色ムラを表現しました。「火事になるかと思いました(笑)」という場面もあったとか。

 

窓周りには、染料で仕上げた“タレパネル”を設置。「お忍びで会食をセッティングしていただくような、イケてる大人たちが困らないように…(笑)」と視線を遮る工夫も。デザインと笑いが同居する、あたたかい現場の空気が伝わってきました。

素材と表現、そして設計哲学の深層へ

質疑応答では、「なぜフェイクではなく“本物”の素材にこだわるのか?」という問いに対し、「面白いからです」と軽快に回答しながらも、「均質化された空間が増える中で、その土地や時間を感じられる素材を使うことに意味がある」と語ります。醤油を使った塗装などに象徴されるような、ストーリーのある素材選びが、空間を“自分ごと化”させる鍵だと説きました。

「“サビの人”という印象が残ったが、素材への着想は学生時代からか?」という質問には、「小さい頃からものづくりが好きだったことに加え、隈研吾事務所で徹底的に素材と向き合う姿勢を学んだことが大きい」と回答。

「なぜ“オリエンタルに見せる”ことを意識しているのか?」という質問に対しては、「日本の“時間を内包した素材感”は世界にとって貴重なもの。欧米的な均質化に抗い、文化的背景を表現できることが日本人の強みだと考えている」と、国際的な戦略視点からの解説も交えました。

最後に「好きなモジュールは?」という質問には、「約数が多い数」と即答。割り付けの合理性を重んじる田中氏らしい回答に、会場の共感と笑いが広がりました。

若手デザイナーへのメッセージ:「やり抜くこと」に価値がある

「大きい仕事だから価値がある、小さいからダメ──そんなことはない」と語る田中氏。冒頭でも述べた通り、5,000円のプロジェクトが世界と繋がったように、スケールではなく“やり抜く熱量”こそが、デザインの価値だと力強く伝えました。

「最初は小さなインテリアやインスタレーションだった。でも積み重ねていくことで、気づけば2000平米規模の集合住宅や、道の駅、複合施設などに関われるようになった。見てくれている人は、ちゃんと見てくれている」

また、アワードに積極的に応募している理由については、「自分の現在地を確認するため」だと語り、学生にも外部コンペへの挑戦を強くすすめました。「クレームが減るというおまけ効果もある」と笑いを誘いながらも、実務者としての現実的な視点も共有。学生にとっては、アイデアの言語化や設計への姿勢を見つめ直す機会に。プロにとっても、若い感性から刺激を受ける場となり、学びのある双方向の時間となりました。

次回「デザイナーズエッジ」第7回 開催のお知らせ

日時: 5月 30日(金)
開場: 18 時40分〜 / 開演: 19 時00分〜 / 懇親会: 20時15分~
会場:東京都渋谷区道玄坂2-25-12道玄坂ビル4F(ユニオンテック株式会社オフィス)
参加費:無料
対象者:学生、デザイナー(定員:100名 ※一部オンライン対応)

講演者:山路 哲生 Tetsuo Yamaji
株式会社山路哲生建築設計事務所 建築家
HP

1980     香川県生まれ
2003     芝浦工業大学工学部建築学科 卒業
2005     Architect Christian Kerez
2006     横浜国立大学工学府社会空間システム学科建築学コース 修了
2006-2008  SAKO建築設計工社
2010-2015   隈研吾建築都市設計事務所 主任技師
2015-      山路哲生建築設計事務所 主宰
2015-      芝浦工業大学 非常勤講師     

詳細は「デザイナーズエッジ」公式サイトSNSにて随時発信してまいります。次回も、視点を変える出会いと発見に満ちた時間をお届けします。

 

採用募集・エントリー

JOIN US

ユニオンテックではひとりひとりの社員が快適に働くためのさまざまな仕組みや制度をご用意しています。

採用募集・エントリー