《デザイナーズエッジ Vol.07 イベントレポート》日本一の木造高層建築「銀座髙木ビル」に込められた“都市の雑居性”とは? 建築家・山路哲生氏が語る、未来を変える建築の視点とは | 社内レポート | 採用情報 | ユニオンテック株式会社

「デザイナーズエッジ」第7回開催レポート・第8回開催のお知らせ


最先端を走る空間デザイナーのための対話型イベント「デザイナーズエッジ」。
第7回は、都市の雑居性と木造建築の可能性に迫る学びの場に。

5月30日、渋谷・ユニオンテック本社にて開催された第7回「デザイナーズエッジ」。今回のゲストは、建築家・山路哲生氏。都市空間の重層性や、木造建築の新たな可能性をテーマに、実践に裏打ちされた思想と手法が交差する刺激的な講演が展開されました。
会場には、学生からプロのデザイナーまで多様な立場の参加者が集い、それぞれの視点を広げる貴重な機会となりました。


原点は、山と旅と建築

山路氏の原点は、香川県の山奥。豊かな自然に囲まれて育った原風景が、後の設計思想に影響を与えます。学生時代には、アルバイトで資金を貯めて世界中をバックパッカーとして巡る日々。
旅の中で出会った欧州の建築、都市の風景、そしてそこに介在する建築家の力に圧倒され、「建築を通じて社会に貢献する道」を志すようになったといいます。

修業時代に得た、都市スケールの視点

大学院在学中、チューリッヒのクリスチャン・ケレツ事務所で1年インターンを経験。
卒業後、SAKO建築設計工社では北京の大規模プロジェクトに従事し、都市の急成長と建築の関係性に触れました。

その後、隈研吾建築都市設計事務所に転職。ここでは、渋谷スクランブルスクエアなど大規模商業施設の設計を通じて、設計のスケールを広げていきました。

銀座に生まれた、木造高層建築「銀座髙木ビル」——都市の未来に重ねる、設計の問い

講演にてひときわ注目を集めたのが、山路氏が手がけた「銀座髙木ビル」のプロジェクト紹介でした。
地上12階建て・高さ56メートルという、日本一の木造高層建築(※2025年現在)でありながら、その構成は極めてユニークです。

下層階は鉄骨造、上層階は木造というハイブリッド構造を採用し、「木造建築は低層に限られる」という従来の常識に挑戦し、木材の使用量は約440本分、二酸化炭素の貯蔵量にして約65t。
まさに建築が環境に貢献できる可能性を可視化した取り組みです。
※木材は、二酸化炭素を固定したまま貯蔵できるため、木造住宅や家具の利用は、地球温暖化防止に貢献します。

しかしこの建築が語りかけるのは、サステナビリティだけではありません。山路氏が強調したのは「都市の雑居性」──銀座という多様な機能がひしめく街で、あえて“均質化”とは逆を行く設計思想です。

「日本の都市は“雑居ビル”の集合体でできている。その新しいあり方を提案したかった」

この言葉の通り、銀座髙木ビルの構成はまるで「垂直に積層された路地空間」。町屋的な奥行きを再解釈し、路地のような通路を建物の中へ引き込むことで、銀座の街並みに“立体的な余白”を加えるような空間構成となっています。
さらに印象的だったのが、テナントビルでありながらも「素材の本質に触れる」ディテールの数々。例えば、9〜12階の木造部分には、あえて特許工法を使わず、鋼板とドリフトピンによるシンプルで再現性の高い仕口を採用。
これにより、中小の施工業者でも木造高層建築にチャレンジできる未来を見据えたとのこと。

「僕たちがつくる建築が、産業や街の選択肢そのものを増やしていく。設計は、社会の“可能性”のためにある」

講演では、髙木ビル内の各フロアに展開されているテナント──例えば、ヒノキに包まれたサウナ「91°SAUNA」や、木毛を使った天井が印象的なレストラン「FRENCHBAL GINZA」などについても紹介。建築からインテリアまで一貫した美意識が貫かれており、建築と都市、そして時間との対話を感じさせる事例として、会場の参加者たちの思考を大きく揺さぶっていました。


 

小規模でも思想は大規模。「MONNAKA COFFEE」

大規模建築の代表例として紹介された「銀座髙木ビル」と対をなすように、山路氏は小規模ながらも深い思想が込められたカフェ空間「MONNAKA COFFEE」のプロジェクトについても語りました。
敷地は、再開発が予定されている東京・門前仲町の一角。80平米の木造建築ですが、そのすべての構造材は東京都檜原村の林業家から直接仕入れた「シングルオリジンストラクチャー」。

「コーヒーに“シングルオリジン”があるなら、建築の木材も同じアプローチを試せないか」そんな発想から本プロジェクトは発展しました。

「山に実際に足を運び、通常なら建材として使われない“枝”や“根”“木端”を選んで家具に使った。林業家と建築家が直に対話することで、新しい木材需要の形が生まれると信じている」と語りました。

しかもこの建物、なんとわずか5〜10年の仮設利用を想定した「ファストアーキテクチャー」。

構造体は6つの木ユニットで構成され、将来的には分解して別の土地で再利用できる仕様になっています。山路氏は「仮設であること=価値が低い」ではなく、限られた期間の中で最大限の機能と関係性を生み出すという考え方こそ、これからの都市建築に必要だと語ります。
また、空間内部では「木毛(もくもう)」を使ったカウンターが大きな存在感を放っています。これは元来、梱包材として用いられていた素材ですが、今回あえて内装材として再定義。
素材に新たな役割を与えることで、林業全体の可能性も押し広げていくという山路氏の意思が込められています。

「素材の選び方ひとつで、都市と山、建築と家具、生産者と使い手がつながる。設計とは、そうした“接続”を生む仕事だと思っている」

建築を“つくる”ことだけに留まらず、建築の存在を通して社会とどう関わるか、どんな循環を生むかを見つめたこのプロジェクトは、参加者にとっても「小さな建築が持つ大きな可能性」を体感する事例となりました。


 

曖昧さの中に生まれる価値。「IKE-SUN PARK kotoport」がつくる“建築でも車でもない居場所”

建築家・山路哲生氏が手がけた《IKE-SUN PARK kotoport》は、東京・池袋の「イケ・サンパーク」に設置された移動型の小さな店舗です。
その特徴は、見た目は小屋、しかし法的には“車両”という曖昧な存在であること。後部には実際にナンバープレートが付けられ、必要があれば移動も可能です。

「建築でも車でもないものだからこそ、成立する“場”があるんです」

山路氏がそう語るように、本プロジェクトの最大の面白さは「建築の定義」そのものに対する挑戦にあります。通常、公園内には建築物を恒久的に建てることはできません。
そこでこのプロジェクトは、“車両”という扱いにすることで、建築基準法の枠をすり抜けながらも、人が集まり滞在できる空間=居場所を実現しました。

サイズは、わずか2.5m × 3.7m。この極小スケールの中に、屋根と壁、窓を備えた店舗としての機能を詰め込みながら、外観は街の風景に溶け込むナチュラルな印象。建築としての厳密な形式は持たないものの、確かに“場”としての空気をまとっています。

「車と分類されているけれど、実際には“家”でも“店舗”でもある。この“何者でもない”曖昧さが、この場所にしか生まれない意味をつくっている」と山路氏。

建築が持つべき「固定性」から解放されたこのプロジェクトは、むしろ“あいまいであること”が価値となる数少ない事例です。この空間の誕生によって、IKE・SUN PARKには新しい公共性が生まれました。
誰もが立ち寄れる場、そして都市の中での小さな営みの拠点。街のなかに“スキマ”を生むように、存在そのものが建築的な問いを投げかけています。

従来の形式や制度に収まりきらない、けれども確かに人の活動を支える──そのような曖昧さを受け入れる設計のあり方は、これからの都市の可能性を大きく広げてくれるのかもしれません。


都市の雑居性に向き合う姿勢

質疑応答では「都市の雑居性とは何か?」という問いが挙がりました。
山路氏は「日本の都市は雑居ビルによって成り立っている。だからそのつくり方を更新すれば、都市の風景そのものを変えられる」と語ります。銀座髙木ビルのような“重層的な路地”の提案はその実践の一つ。
大規模開発とどう共存するか、という問いに対して、小さな建築が果たせる役割を提示する姿勢が印象的でした。

---

飲食店インテリアのような短命な建築に向き合うには?

参加者から「短いスパンの設計と、100年を見据える建築の間にどう向き合うか?」という問いが投げかけられると、山路氏は「短いことが悪いわけではない。その期間に意味があるなら十分に価値がある」と返答。
3年で擦り切れる服が存在するように、3年で役割を果たす建築もまた“正解”であるという考え方に、多くの参加者が頷いていました。


100年後をつくる、10年後を考える

講演の最後には、建築家アドルフ・ロースの言葉が引用されました。

ポケットからマッチ箱を取り出し、ロースは私に言った。
「これが現代建築だ。未来の建築はコンクリートではないよ。
未来の家は木造だ!それは日本の小住宅のようなものさ!
現代建築は日本の文化にヨーロッパの伝統を加えたものになるだろうね! 」
ーThe Private Adolf Loos / Claire Beck Loos 櫻井義夫訳

100年前にそう語られた言葉の意味が、いまようやく始まってきている。
だからこそ、1年後などの近い成果を目指すだけでなく、100年後の景色を見据えて設計に向き合うことが大切なのだと、山路氏は強調しました。


学生からプロフェッショナルまで、幅広い参加者が集まった第7回「デザイナーズエッジ」。
講演を通じて見えてきたのは、「スケール」や「期間」の大小にとらわれず、建築を通じて社会とどう向き合うかという真摯な姿勢でした。

市の風景を変えるのは、名建築だけではありません。小さなカフェ、曖昧な存在の屋台、そして誰かの家の設計もまた、未来の都市の一部になり得るのだと、気づかされる時間でした。

次回「デザイナーズエッジ」第7回 開催のお知らせ

日時: 6月 18日(水)
開場: 18 時40分〜 / 開演: 19 時00分〜 / 懇親会: 20時15分~
会場:東京都渋谷区道玄坂2-25-12道玄坂ビル4F(ユニオンテック株式会社オフィス)
参加費:無料
対象者:学生、デザイナー(定員:100名 ※一部オンライン対応)

講演者:坪井 秀矩 (Hidenori Tsuboi)
株式会社坪井建築設計事務所 一級建築家

HP

1983年 奈良県生まれ
2005年 近畿大学理工学部建築学科卒業
2005年 アーク建築設計工房勤務​
2008年 株式会社森下建築総研勤務
2011年 坪井建築設計事務所設立

詳細は「デザイナーズエッジ」公式サイトSNSにて随時発信してまいります。次回も、視点を変える出会いと発見に満ちた時間をお届けします。

 

 

採用募集・エントリー

JOIN US

ユニオンテックではひとりひとりの社員が快適に働くためのさまざまな仕組みや制度をご用意しています。

採用募集・エントリー